楽器の選び方

楽器の選び方

価格・ブランドに惑わされる

価格・ブランドに惑わされる

日本では物が良いから売れるのではなく、 売れているものを盲目的に信じ、結果それが益々売れるという傾向があります。
また、価格が高額なものについては、きっとそれなりの理由があるのだろう、モノの質、価値が高いに違いないと勝手に良い方に解釈し、大して吟味もせずに購入を決めてしまうことが少なくないのではないでしょうか。

本当は自分で気に入ったもの、自分でこれだ!と思うものこそが、まさにその人にとっての「良いもの」「価値のあるもの」であるはずなのですが・・・。 個人の主義、主張よりも人との和を尊ぶわが国では、自信を持って自分が選んだものを「良いものである」と言いい切ることが苦手なのではないでしょうか。
自信が無いから、他人の評価、他人の目線が何となく気になるのです。そういうときに、頼れる存在としての「ブランド」は日本人にとって大変有難い存在なのです。

ただ、単純にブランドが悪いもの、全く価値の無いものとは私は思いません。世の中にはブランドの名に恥じないモノづくりをしている歴史ある企業や優れた技術、伝統をきちんと継承して仕事を続けている職人も多数存在しているからです。
本来ブランドとは長い歴史の中で培われた信頼の証であって、一朝一夕に造り上げられるようなものではありません。ですから価値があるのです。

しかしながら、最近流行の「ブランディング」は、大方が大々的な広告戦略によって短期的に造り上げられたもので、実力、内容の伴わない中身が空虚なものも少なくありません。そういったものは真のブランドとは呼べないと私は思います。

実は楽器の世界でも「ブランディング」は現代に始まったものではなく、随分と昔から行われていました。

「ストラディヴァリのニスのレシピをついに手に入れた」とか、「この楽器は、ヨーロッパの古い教会が壊されたときに偶然手に入れた200年以上も前の木材を使って製作した」などの眉唾ものの話がそうですし、特定の楽器の書籍を編纂、写真集を出版して、その楽器と編纂者の地位を上げる、権威づけるというような手法は、随分昔から行われ続けてきました。

また、わざわざ後から証明書、鑑定書を付けて販売するという行為も、ある種のブランディングと言えるのではないでしょうか。
本質を知らない顧客は、証明書を付けることで、大したことのない楽器でも、由緒ある楽器、立派な楽器であるかのように勘違いしてしまうのです。
証明書など、ただの紙切れに過ぎず、それが音を出すわけではないことは自明の理であるはずなのですが、証明書、鑑定書が付くことで、顧客はすっかり安心して楽器を購入してしまうのです。

手工弦楽器というものは1台1台がそれぞれ個性ある異なった独立した個体、いわゆる一点ものであり、たとえ同じ製作者が同じ年に作ったものであっても、全く同じものとはなりません。
となると、ブランドに頼る、証明書を信用する、特定の国籍、製作者に限定して選ぶという行為は、ヴァイオリン、手工弦楽器の世界では全く意味を成さず、得策ではないのです。

ピアノや管楽器はこの200年〜300年の間に構造的、機能的に発展を遂げてきました。見た目からして、古楽器と呼ばれる楽器と現代の楽器では随分と違っていることが誰の眼にも明らかだと思います。しかし、ヴァイオリン属は300年前のものと今の楽器を比べても全く姿かたちは変わっていません。
つまり、ヴァイオリン属は300年の間、ほとんど改良されることもなく、進歩が無かったと言えるでしょう。
進歩が無かったと言うと聞こえが悪いですが、要するに改良の余地がなかった、300年も前にすでに楽器として完成し尽していたということなのです。
ですから、1700年代のクレモナ黄金期以降ずっと現代に至るまで、弦楽器製作者の目標とは、いかにその300年前の名器に近づくかということだったのです。

つまり、現代においては、誰が作ったか、どこで作ったかでヴァイオリンの良し悪しが決まるのではなく、どのように楽器が作られたのか、すなわち300年前の名器にどれだけ肉薄できたかで決まると言えるでしょう。

不確かな情報に惑わされる

現代ではWEBを通じてHP、掲示板、ブログ等から様々なヴァイオリンに関する情報を誰でも集めることができます。
でも、それらの中には噂や迷信、単なる憶測、思い込み、勘違いなども沢山混在しています。

果たしてどの情報が正しく、どれが間違っているのでしょうか? 調べれば調べるほどわからなくなり、迷路に迷い込んでしまってはいないでしょうか?

ここで重要なのは『貴方にとって』の『間違いの無いヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ』を選ぶということです。他人の購入体験、試奏の感想、助言がそのまま貴方にも当てはまるとは限りません。

クルマやカメラなどのような工業製品であれば、価格COMなどの口コミ、他の人の感想、意見は参考になるかとは思いますが、ヴァイオリン等の手工弦楽器は、先に述べたようにまさに1点ものの世界ですから、製作者、年代が同じであっても全く同じものにはなりません。

つまり、性能、音は1台1台異なるわけですから、掲示板等WEB上での発言、感想はその当該個体のみについてのみ語られていることであって普遍性には乏しいのです。

ですから、必要なのは、徒にWEB上の情報に右往左往することではなく、今貴方の目の前に出されている楽器のみに向き合い、そこから何を感じ取れたか、どう思ったかを自分自身にひたすら問い続けることなのではないかと私は考えます。
そして生兵法は大怪我のもと。人の意見を鵜呑みにしたり生半可な知識で頭でっかちになってしまうと、かえってご自身の感性、正しい判断力を混乱させたり、鈍らせ、その結果誤った楽器の選択をしてしまいかねません。

それでは、自分の検討している楽器そのものについての助言、感想を人に聞くのならば、良いのではないかということになるかもしれません。
そのときに注意していただきたいのは、助言を求めているお相手は果たしてどれくらいの数のヴァイオリンを購入したことがあるのでしょうか?ということです。
つまりどれくらいの経験値に基づいて意見、感想を述べてくださっているのかということです。

もし貴方、あるいはご家族が深刻な病気で手術を受けないと助からないというような状況に陥ったとき、きっと誰もが血眼になって腕の良い外科医、評判の良い病院を探されると思います。
その際に選ぶ基準は、同じ病気の患者の手術の症例数、成功実績をまずお調べになられるのではないでしょうか。私は弦楽器の選定眼その習熟度についても、上記の外科医の場合と全く同じことが言えるのではないかと思います。

ただ何軒もの店を回って沢山のヴァイオリンを見た、弾いたことがあるということや、展示会で何台もの楽器を見てきたというだけの経験値は私は信用しません。
先ほどの外科医の例で言えば、それは論文で術式を調べたり、シミュレーターで練習した数に過ぎません。そうではなく、信頼できるのはどれだけ実際に生身の人間を切ったか、手術をこなしたか、それでどれだけの患者を救えたのか。その数でなければ、決してその病院、外科医を信用できないのではないでしょうか。

つまり弦楽器の選定眼の確かさは、ただ色々回って楽器を見るだけではなく、実際に身銭を切って購入した楽器の数で決まるのと私は言いたいのです。

助言を求められる知人、先生、ネットの掲示板などで発言している人物それらの方々自らが実際に購入された楽器の数はいったいいかほどなのでしょうか?
(もちろん、ヤフオクなど転売目的で購入を繰り返して多数の楽器を購入したというような人は論外です。)

そう考えたとき、数台の楽器購入経験しかない人と、その数十倍、数百倍の楽器数を購入している我々楽器商とどちらの経験値が勝るかは自ずと結論が出ることでしょう。

ご自分や大切な家族の命がかかった手術を経験の浅い医者に任せられないのと同様、楽器購入経験の少ない人の感想、助言は極めて信頼性が低いのではないのでしょうか。
自分では決める自信が無い、不安だからと言って、ネットで情報を集めたり、知人に聞きまくったりすることの危うさはそこにあるのです。

楽器ごとの音色の違いに惑わされる

 楽器ごとの音色の違いに惑わされる

 

他の楽器、ピアノや管楽器に比べて、1台、1台楽器の音の違いが誰にでも比較的容易に気が付きやすいのがヴァイオリン(弦楽器)だと思います。
そこで、多くの方々は、どの楽器が自分に合っているか、どの音色が自分にとって最適なのかということで迷うことになります。
つまり、「それぞれ楽器の音の違いが有るのはわかるのだけれど、どれが良いのか、どれが自分に合うのかがわからない」という状態に陥りがちなのです。

そこでの問題は、楽器の音と言っても、多くの方は「音色」と「性能」の違いをきちんと区別して評価できていないということなのです。

音色の良し悪し、好き嫌いは、人の好み、つまり主観に大きく左右されます。例えばある楽器を弾いたり音を聴いたりして、その音に関して、明るい音と好印象を抱いた人がいたとします、ところが、弾く人、聴く人が別だと、その全く同じ楽器の音であっても全然違った印象、例えば金属的な音、キンキンした音とネガティブな印象を持つようなことがあるのではないでしょうか。

一方、楽器の性能というのは、音量であったり音の立ち上がり(レスポンス)、4弦のバランス、ダイナミックレンジの広さ等々、完璧な数値化とまではいかないまでも、音色を語るよりはそれぞれの要素を客観的に評価することができます。

また楽器の性能はつくり、健康状態と密接な関係があります。

楽器なのだから音で選ぶのは当たり前、一番良いと思う楽器を選んでどこが悪いのだと皆さんおそらくおっしゃることでしょう。
しかし、音だけで判断する選び方だと「音色は良いが、性能は悪い」という楽器を選んでしまう危険性があるのです。

何台かの楽器の中から一番気に入った音の楽器を選んだはずなのに、実際にその楽器で演奏すると「音量が足りないと人から言われる。」
あるいは、「音の立ち上がりがはっきりせず、細かい動きが聴き取れないと言われる」というようなケースはその選び方が原因です。
音色が柔らかい、心地良く響く、深みがあると感じられた音は、実は板が極端に薄かったり、健康状態が悪く、楽器が傷んでいるために単に力強い音が出なかっただけで、本当の音の柔らかさ、楽器が良く響いていた上での深みのある音ではなかったということも少なくないのです。

これは楽器を選ぶ際に、性能、つまり楽器のつくりや健康状態をきちんと検証せずに、音だけで選んでしまったからなのです。

音色が良い、好きというのはその方の主観ですから、良い、気に入ったと思えば他人がとやかく言うことではないのかもしれません、しかし、音量やレスポンスなどは実際の演奏、楽器の音を人が聴いて判断することなので、まず人にきちんと音を届けられることが先決なのではないでしょうか。
性能が悪い楽器は聴いている人に正しく音を届けるという能力に欠けています。人にきちんと音が届いて、初めて楽器の音色云々が語れるのではないでしょうか。

また、音色の好みはたった一つに絞り込めるような性質のものではないと思います。数学のように常に正解は一つしかないという性質のものではないのです。

例えばモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を色々な名手のCDで聴き比べるとき、どれもがそれなりに説得力のある演奏なはずで、どれが一番好きかは決めにくいと思います。
音楽の解釈も色々な解釈があって、決して正解は一つだけということがないからです。

また、音色の好みは主観的なものであるが故に、今日これが一番だと思っても、一週間後には違っているかもしれません。
主観とはその方個人の趣味嗜好によるものなので、その時々の体調、気分などに左右されることもあるのではないでしょうか。

食べ物を例にとれば、一番好きな食べ物と言っても、その日の体調、前の日に何を食べたかなどの理由で、今日はイタリアンが食べたいとか、和食が良いなとか好きな食べ物、一番食べたいものと言ってもその時々で変わると思います。

楽器の音もそれと同様、好きな音色が常に普遍、一つに絞られて絶対に変わらないという性質のものではなく、この音は好きだけれど、でもこういった音も良いかなとその日の体調、その時々の気分によってある一定範囲の中でブレがあるはずです。

ただ、楽器の性能、例えば音量や音の立ち上がりなどの要素は(もちろん湿度などの環境には左右されるかもしれませんが)音色の評価のようにはブレることはありません。
それは、楽器のつくり、すなわち隆起や板の厚み、材料の密度などは人の気持ち、感覚のようにコロコロと変化してしまわないからです。
人間の主観は色んな外的(環境)要因、内的(心理的)要素に左右されますが、楽器のつくりは(もちろん100年、200年という単位では変化しますが)短期的にはまず変化しないからです。

つまり、楽器選びで最も重要な要素、真っ先に検討すべきは楽器の性能であるということなのです。
そしてその性能は先に述べましたように、楽器のつくり(板の厚み、隆起、製作精度)や健康状態(修理の状態、保管状態)と密接に関係がありますので、まず楽器の音を出す前、試奏する前にそれらの要素は調べ上げることができます。
比較する楽器の性能のレベルが揃って、初めて音を出して好きな音色の楽器を選んでも良い段階になります。
この検証をせずに最初から音を出して選ぼうとしてしまうと、先に述べたように「音色は良いが、性能は悪い」楽器を選んでしまうことになるのです。

まず楽器探しで最初に行うべきは、性能の劣る、すなわちつくりや状態の悪い楽器を排除することなのです。

こちらから貴方に合ったヴァイオリン・ヴィオラが選べます-ヴァイオリン・ヴィオラNAVI


ヴァイオリン・ヴィオラNAVIは用途別、嗜好別に入口を分けてみました。
ただ、私の独断と偏見で、ざっくりと分けてしまいましたので、不都合はあるかもしれません。
その辺りは随時改善していきたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。

もちろん、ご来店されてのご試奏、お選びの際には、ご要望に沿うよう細かく丁寧にご案内いたしますので、どうかご安心ください。

※ チェロの項目がここにはございませんが、チェロをお探しの方は こちらのページからお入りください。

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